飛行機搭乗中に急病人が出て「お医者さまはいませんか?」とアナウンスがある場面を見たことはありませんか。名乗り出た医師に謝礼や報酬は支払われるのか、ドクターコールが発生する確率はどのくらいか、医師がコールを無視したら罪に問われるのか、最新情報を交えて詳しく解説します。
飛行機のドクターコールとは?
機内で急病人が発生した際に、客室乗務員が「お客様の中にお医者様はいませんか?」と呼びかけて乗客の医療従事者に協力を求める緊急アナウンスが「ドクターコール」です。
これはあくまで善意に基づくボランティア要請であり、医師に強制力はありません。客室乗務員は状況に応じて医師や看護師など有資格者の同乗有無を確認し、名乗り出た人に救護を依頼します。
近年、日本の大手航空会社であるJAL(日本航空)とANA(全日空)は「JAL DOCTOR登録制度」や「ANA Doctor on board」といった仕組みを開始しました。これは事前に医師がマイレージ会員情報と資格を登録しておくことで、いざという時にドクターコール無しで直接依頼を受ける制度です。
いずれの場合も対応するかどうかは医師本人の任意であり、飲酒中や体調不良などの場合は辞退することも可能とされています。
飛行機でドクターコールが発生する確率
機内でドクターコールが発生する事態は非常にまれです。統計によると、発生率はごく低く、例えば海外の報告ではおよそ600便に1回程度の頻度とされています。
日本の大手航空会社でも年間発生件数はごくわずかです。JALの発表によれば1年間に約350~360件の機内急病人対応事例があり、そのうち約3分の2でドクターコールによる協力要請が行われています。これはJALグループ全体の総フライト数に対して0.1%台の低確率といえるでしょう。
特に、国内線より国際線の方が発生頻度は高く、約2倍程度と報告されています。国際線は長時間フライトとなり高齢者や持病を持つ乗客も増えるため、相対的に急病発生のリスクが上がると考えられます。
それでも全体としてはドクターコールがかかる事態は稀であり、ほとんどのフライトでは起こらないと言ってよいでしょう。
ドクターコール対応で謝礼はあるのか?
金銭的な報酬は基本的にありませんが、航空会社から好意へのお礼としての特典やギフトが提供されるケースがあります。つまり、医師が機内で救援したこと自体に対する正式な「報酬」は発生しない一方、感謝の意思表示としてのサービスや記念品が受け取れる可能性があります。
ここでは謝礼に関するポイントを2つ説明します。
※ 特典・謝礼は制度や時期・事例により変動します。最新の公式情報をご確認ください。
項目 | 要旨 | 詳細 | 参考 |
---|---|---|---|
事前登録医師インセンティブ(JAL) | ラウンジ券など。 |
JALの医師ボランティア事前登録で、国内線サクララウンジ年3回まで無料クーポン等の特典(登録当時の例)。 医療行為の対価というより、協力医師を増やすためのインセンティブとして位置づけ。 |
外科医の視点(医師ブログ) |
事前登録医師インセンティブ(ANA) | マイル付与。 |
ANAの事前登録で3,000マイル相当の付与例(登録当時)。 いずれも“善意の確保”を目的とした小さな特典が基本。 |
外科医の視点(医師ブログ) |
機内で対応した際の謝意(一般例) | 善意へのお礼。 |
急病対応に協力した医師へ、後日感謝状やボーナスマイル、座席アップグレード、ワイン・記念品などの謝意が示される事例。 一部では商品券(約1万円相当)や国内線クーポンが提供された報告も。 いずれも会社の任意対応で、法的義務ではない(有無・内容はケースバイケース)。 |
ファイナンシャルフィールド |


ドクターコールを無視すると罪に問われるのか?
ドクターコールを無視しても犯罪には問われません。 機内で医師が名乗り出るかどうかはあくまで本人の善意による自主判断であり、法律上の義務ではないからです。
日本の医師法第19条には「応召義務」(正当な理由なく診療要請を拒めない義務)がありますが、これは「診療に従事する医師」に課された規定です。
医療機関で勤務中の医師であれば救急患者を断れない義務がありますが、単なる旅行中の乗客として搭乗している医師はこの応召義務の対象外と解釈されています。
そのため、仮に機内アナウンスで医師を募る声に応じなくても法律違反にはならず、処罰や罰則はありません。実際、名乗り出なかったことで医師免許の剥奪や医師会からの罰を受けるような規定も存在しません。もちろん人道的・倫理的には「可能な限り助けるべき」とされますが、最終的には各医師の体調や能力判断に委ねられているのです。
なお、「助けたい気持ちはあるが万一助けられなかった場合の責任が不安」という声もあります。これについては、日本では欧米のような善きサマリア人法こそ整備されていないものの、航空会社側が独自に医師を守る体制を整えています。例えばANAの医師登録制度では、医師が機内対応した結果について故意・重過失がない限り、発生した損害賠償責任は航空会社が主体となって対応するとうたわれています。
JALも同様に、機内でのボランティア医療行為によって万一トラブルが生じた場合は自社加入の保険で補償し、医師個人に負担が及ばないようにする方針を示しています。これらの措置により、医師が善意の対応をしたことで後から責任を問われるリスクは極めて低く抑えられています。
したがって、ドクターコールを無視して罪に問われる心配は無用ですが、いざという時に余力があれば名乗り出て協力するのが望ましいでしょう。
謝礼は存在する
飛行機内で急病人が出た際の「ドクターコール」は、医師など有資格者に協力を仰ぐための緊急アナウンスです。発生確率は非常に低く、国内線では数百~数千便に1回、長距離の国際線でも数百便に1回程度と稀な事態です。ドクターコールに応じて救護した場合でも金銭的な報酬はありませんが、航空会社からマイルの付与やアップグレード券など感謝の品が贈られることがあります。
また、JALやANAでは事前に医師登録したボランティアに対しラウンジ利用券やマイルといった特典を用意しています。
ただし、どのような謝礼が受けられるかはケースバイケースであり、基本的には見返りを期待しない善意の対応と心得るべきでしょう。
なお、ドクターコールを無視したからといって法的な罰則はなく犯罪には当たりません。機内での対応は医師の任意ですが、各社とも協力医師が安心して手を挙げられるよう事後の責任は会社が負う体制を整えています。総じて、飛行機のドクターコールはあくまで緊急時のボランティア要請ですが、協力すれば相応の感謝が示され、協力しなくても罪に問われることはないというのが現状です。
参考文献
- Aviation Wire(2016年2月3日)「JALと日本医師会、機内急病人の応急処置 医師登録制度スタート」URL: https://www.aviationwire.jp/archives/81431 (参照 2025-09-07)
- Emergency Medicine Alliance(2023年9月13日)「EMA症例146:8月解説『旅客機内での急病対応』」URL: https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu146 (参照 2025-09-07)
- 外科医の視点(圭陽先生ブログ、2018年10月1日公開/2019年9月11日更新)「JALとANAの医師登録制度には加入すべきか? 違いと利点・欠点を考察」URL: https://keiyouwhite.com/jal-ana (参照 2025-09-07)
- ファイナンシャルフィールド編集部(2024年10月29日)「飛行機に乗っていたら『お医者さんはいませんか?』とアナウンス…対応した医師は謝礼を受け取れるのでしょうか?」URL: https://financial-field.com/living/entry-341918 (参照 2025-09-07)
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