交通系ICカード「ICOCA(イコカ)」のマスコットキャラクターとしておなじみの「カモノハシのイコちゃん」。水色の可愛らしいカモノハシのキャラクターですが、なぜJR西日本はこの珍しい動物を採用したのでしょうか。その理由や誕生のストーリーを詳しく調査し、愛される秘密に迫ります。
ICOCAのカモノハシとは?

JR西日本のICカード乗車券「ICOCA」のマスコットキャラクターがカモノハシのイコちゃんです。2003年のICOCAサービス開始とともに登場したキャラクターで、水色のカモノハシを模した愛らしい姿が特徴となっています。
哺乳類でありながらカモのようなくちばしを持つカモノハシという実在の動物がモデルで、珍しい生態ゆえに発表当初から注目を集めました。実際のカモノハシはオーストラリア東部に生息する卵を産む哺乳類で、鳥類のような平たいくちばしや水かきのある足、全身を覆う体毛など一風変わった特徴を持っています。そのユニークさから発見当初はヨーロッパの学者をも混乱させ、「哺乳類の体に鳥のくちばしを縫い付けた偽物ではないか」と疑われた逸話もあるほどです。

イコちゃんのキャラクターデザインは漫画家の夏野ひまわり氏が手掛けており、JR西日本が権利を買い取って公式キャラクターとして採用しました。名前の「イコちゃん」はICOCAにちなむ愛称で、登場当初は「イコカモノハシ」あるいは「カモノハシ博士」とも呼ばれていましたが、現在では親しみを込めて専らイコちゃんと呼ばれています。関西弁の「行こか?」(行こうか)に由来するICOCAの名称との語呂合わせも相まって、関西地域を中心に広く認知されるマスコットとなりました。
ICOCAがカモノハシを採用しているのはなぜ?
ICOCAのマスコットにカモノハシが選ばれた理由は主に3つあるといわれています。
これからその3つの理由を順に説明します。
先進性:哺乳類なのに卵を産む革新的な特徴
カモノハシ最大の特徴は、哺乳類でありながら卵を産むという通常の哺乳類にはない生態です。哺乳類で子孫を卵生で残すのは極めて珍しく、この点が「先進性」の象徴として評価されたと言う見解があります。さらに、カモノハシは鳥類を連想させる平たいくちばしまで持ち合わせており、哺乳類の常識を超えたユニークさがあります。
こうした従来の分類にとらわれない先進的(革新的)な特徴が、新技術ICカードの斬新さをイメージさせるものとして選定理由の一つになりました。ただ皮肉なことに、生物学的にはカモノハシは哺乳類の中でも原始的な単孔類に属し、「先進的」というより「太古から姿を変えない原始的な哺乳類」だとも言われています。それでも、「卵を産む哺乳類」という唯一無二の特徴がICOCAの未来志向や新規性をアピールする象徴となったのかもしれません。
機能性:水かきや尾で泳ぐ高い適応能力
次に挙げられる理由が、カモノハシの持つ高い機能性です。カモノハシは水辺で生活する動物で、平たい尾(尾びれ)や大きな水かきの付いた足を活用して上手に泳ぎ、潜水しながら獲物を捕らえます。
さらに、獲物を探すのに役立つ敏感なくちばしや、後肢には哺乳類で唯一の毒針を持つことなど、多彩な機能を備えています。
JR西日本はこうした生物としての機能的な優秀さを評価し、「ICOCAを持ってスイスイ改札を通れる便利さ」に通じるイメージとしてカモノハシを起用したとされています。例えば、ICOCAを使えば改札もスムーズに通過できるといった利便性や機能の高さを、泳ぎが得意で機能的な体を持つカモノハシに重ね合わせて表現したわけです。
ICカード連想:電波を感じ取る不思議なくちばし
3つ目の決め手となった理由は、カモノハシの持つ特殊な能力がICOCAの技術コンセプトとリンクしていることです。実は、カモノハシのくちばしには電気信号を感知する受容器が備わっており、水中で目を閉じていても獲物が発する微弱な電流や水圧の変化を感じ取ることができます。
この驚くべき生体機能がICカードの非接触通信機能(IC=Integrated Circuit)と掛け合わされ、「カモノハシ=IC(電波を感じる)動物」というユニークな発想につながりました。
要するに、カモノハシはくちばしで電波(微弱な電流)を感じ取る→ICカードは電波でデータをやりとりする→ICOCAのマスコットにピッタリ!というわけです。このユニークなこじつけとも言える発想が関西らしいユーモアも帯びており、当初発表時には「なるほど」と多くの人の関心を引きました。
以上のように、「先進性」「機能性」「IC(電波受信)」という3つのキーワードが、ICOCAのマスコットとしてカモノハシが採用された主な理由とされています。珍奇な動物ではあるものの、これらの特徴がICOCAのブランドイメージにも合致したことから、あえてカモノハシが選ばれたのです。
ICOCAとカモノハシのストーリー
カモノハシのイコちゃん誕生の裏には、JR西日本の遊び心ある戦略とストーリーがあります。ICOCAがサービス開始した2003年当初、JR西日本は新ICカードの普及促進のためマスコットキャラクターを導入しました。前述の理由からカモノハシがモデルに選ばれ、夏野ひまわり氏によるデザインのキャラクターが誕生します。
当初、このキャラには「イコカモノハシ」あるいはコミカルな「カモノハシ教授」という名称が付けられていましたが、ICOCA利用者に親しみやすいように徐々に愛称の「イコちゃん」が前面に出るようになりました。
ちなみに、「イコカモノハシ」という名前は「ICOCAを持って乗れば速くて幸せ」というフレーズを略したものに由来しており(イコカ+ものはしの語呂合わせ)、ICOCAを使う幸福感を込めたネーミングだったとされています。
イコちゃんはデビュー直後から積極的に広告展開に登場し、女優の仲間由紀恵さんを起用したテレビCMで一躍脚光を浴びました。仲間さんとイコちゃんが掛け合いをするコミカルなCMは関西の視聴者に強く印象づけられ、可愛い姿で愛嬌を振りまくイコちゃんの存在が広く認知されました。CMでは落語家の桂小枝さんが声を担当する演出もあり、関西ならではのユーモアでICOCAのPRに貢献しました。
まとめ:愛らしい姿で人気がある
以上の調査から、ICOCAがカモノハシを採用した理由には技術的コンセプトや特徴のユニークさが深く関係していたことがわかりました。哺乳類なのに卵を産むという珍しさ、水中生活に適した機能的な体、そして電波を感じ取る不思議なくちばし――これらすべてがICOCAの先進性・便利さ・非接触ICという要素に結び付けられ、カモノハシのイコちゃんが誕生したのです。
当初はマイナーでマニアックとも言われたカモノハシのキャラクターですが、その愛らしいルックスとユーモラスな設定が受け入れられ、今では老若男女から愛される存在となりました。実際、垂れ目で憎めない表情やぽってりとした体型のイコちゃんは「癒し系キャラ」としても人気が高く、グッズ販売やコラボ企画も次々と展開されています。
ICOCAの利用促進に貢献しただけでなく、20年近く経った現在もなお地域に根付き支持されているマスコットとして、その地位を確かなものにしています。ユニークで可愛いカモノハシのイコちゃんは、これからもICOCA利用者の旅を楽しく彩り、JR西日本の顔として活躍し続けることでしょう。
参考資料・出典:
- JR西日本 「ICOCA」公式サイトja.wikipedia.orgja.wikipedia.org
- 『カモノハシのイコちゃん』Wikipediaja.wikipedia.orgja.wikipedia.org
- Yahoo!知恵袋「イコちゃんはなぜカモノハシ?」detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
- タネタン(元ネタ解説サイト)「ICOCAの由来・意味」moto-neta.com
- 浅原正和『カモノハシの博物誌』書評(BOOKウォッチ)books.j-cast.com
- 梅田経済新聞「ICOCA10周年記念セレモニー」記事umeda.keizai.biz
- ウカノ家計のクリニック「ICカード ICOCAのキャラクター特集」ukano.meukano.me
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