近年、都市部を中心に電動キックボードの利用者が急増しています。
手軽に借りられてスイスイ移動できる便利な乗り物として注目される一方で、マナーの悪い走行や事故の多発から世間の批判も強まっています。「頭おかしい」とまで言われたり、「もう禁止しろ」という極端な声が上がるほど電動キックボードへの風当たりが厳しくなっている状況です。
本記事では、なぜそのように言われるのか、その背景にある理由や実際に起きた危険な事例、さらには反対署名運動まで、最新データや専門家の情報をもとに詳しく解説します。
電動キックボードは頭おかしい?
電動キックボードに対して「頭おかしいのではないか」といった過激な表現が用いられるのは、それほど利用者の一部に常識外れの危険な行為が目立つためです。例えば、ヘルメットもかぶらず夜間に無灯火で幹線道路の真ん中を走る、信号無視で交差点に飛び出す、歩道を猛スピードで走行するといったケースが各地で報告されています。
こうしたマナー違反を目撃した歩行者やドライバーからは「あり得ない」「狂っている」といった怒りや恐怖の声が上がっています。実際、電動キックボード利用者の約8割が周囲から「危険な乗り物」と感じられているという調査もあるほどです。つまり一部の心ない利用者の行動が、電動キックボード全体のイメージを悪化させ、「頭おかしい」とまで言われる原因になっているのです。
電動キックボードが「禁止しろ」と言われる理由
電動キックボードに対して「禁止しろ」という強い批判が出るのには、主に3つの理由があります。
ここではその3つの理由を順に説明します。
理由1: 交通ルール違反やマナー違反の多発
第1に、多くの利用者が交通ルールを守らず危険走行するため、周囲から禁止を求める声が上がっています。 根拠として、警察庁の発表によれば電動キックボードの規制緩和後1年間(2023年7月~2024年7月)に摘発された交通違反は実に25,156件にも上りました。
違反内容で最も多いのは車線の区分を守らず交差点を直進するといった通行区分違反(55%)で、次いで信号無視(31%)が多発しています。また飲酒運転も後を絶たず、2024年上半期に発生した電動キックボード絡み事故134件のうち17%が飲酒運転によるものだったと報告されています。
このように、免許不要で誰でも乗れる反面、交通ルールの理解不足やモラルの低い利用者による危険運転が目立つ状況です。信号を無視して突っ込む、逆走する、二人乗りする、歩道を走るなど本来あってはならない行為が頻発しており、一般の歩行者やドライバーから見れば「ルールを守れないなら禁止すべきだ」という不満が高まっているのです。
理由2: 事故の急増による安全性への懸念
第2に、電動キックボード絡みの事故が急増し死傷者が出ているため、安全面から禁止を求める声が上がっています。 警察庁の統計によれば、道路交通法改正で免許不要となって以降の1年間で全国の事故件数は219件、負傷者数は226人と200件を超えました。
その後も増加傾向は続き、2024年7月までの1年間では事故件数258件に達したと報告されています。これは改正前の2022年度(41件)に比べ月あたり約5~6倍ペースという異常な増加です。さらに、電動キックボードの事故によりついに死亡者も発生しています。警視庁によれば2022年9月、東京都内でヘルメット非着用の男性が転倒して頭部を強打し、電動キックボード事故として全国初の死亡事故となりました。

その後も2023年12月には、39歳の女性が赤信号を無視して交差点に進入し高速バスと衝突、死亡する事故も起きています。このように重大事故が現実に起こり始めたことで、「このままでは危険すぎる」という世論が高まり、禁止を訴える声につながっています。
特に都市部では事故の約7割が東京都内で発生しており、身近で事故報道を目にする人も多いため不安が広がっています。安全対策や法整備が追いつかない中での急激な普及により、「事故を未然に防ぐにはもう全面禁止しかないのではないか」という厳しい意見が出ているのです。
理由3: 歩行者への危険と社会的迷惑の問題
第3に、電動キックボードが歩行者や周囲の安全を脅かし、社会的な迷惑を生んでいるとの指摘から禁止論が出ています。 一つは歩行者との衝突事故への不安です。実際に電動キックボードが歩行者にぶつかり重傷を負わせるケースも起きています。
例えば2023年9月、東京・池袋の歩道で20代女性が電動キックボードで歩行者と衝突し骨折させたにもかかわらずその場を立ち去ろうとし、ひき逃げ容疑で逮捕される事件がありました。また2021年には大阪市で2人乗りの電動キックボードが歩行者と衝突し、被害女性が首の骨を折る重傷を負った事例も報告されています。このように歩行者側が犠牲となる事故が現実に発生しており、「歩行者の安全を守るためにも禁止すべきだ」という主張に繋がっています。

さらにもう一つの問題は電動キックボードの放置や駐車マナーです。シェアリングサービスの普及で街角に乗り捨てられたキックボードが散見され、中には歩道や道路を塞ぐように置かれているものもあります。
実際、国内最大手のシェア事業者LUUP(ループ)のポート設置場所の中には違法な場所に置かれているケースが多く確認されているとの指摘があります。歩道に放置された車両は視覚障害者やベビーカー利用者にとって重大な障害物となりかねず、地域住民からも苦情が出ています。
事業者による管理責任の不徹底も問題視されており、ルールを守らない利用者だけでなく、適切に対処しない運営側への不信も高まっています。こうした状況から、「社会の迷惑になっている以上は禁止すべきだ」という声が強まっているのです。
電動キックボードの危ない事例
電動キックボードに関する危険な事例は各地で報告されています。ここでは実際に起きた代表的な事故例をいくつか紹介します。
- 大阪府での重傷事故(2021年5月):男女2人乗りの電動キックボードが歩行中の女性と衝突し、女性が首の骨を折る重傷を負いました。電動キックボードの運転者と同乗者には損害賠償計1,100万円の支払い命令が下されています。本来二人乗りは禁止ですが、こうした規則違反が重大事故に直結した例です。
- 全国初の死亡事故(2022年9月):東京都内の駐車場内で52歳の男性が電動キックボード走行中に車止めに衝突して転倒し、頭部を強打して死亡しました。男性はヘルメットを着用しておらず、警視庁によると電動キックボード事故で死亡者が出たのは国内初でした。飲酒運転の可能性も指摘されており、安全装備無し・酒気帯びで乗ることの危険性を示す悲劇的な事例です。
- 信号無視による死亡事故(2023年12月):39歳の女性がインターネットで購入した電動キックボードに乗車中、赤信号を無視して交差点に進入し高速バスと衝突、死亡しました。この電動キックボードは本来最高速度が20km/hを超えるため原付扱いで免許が必要な車両でしたが、女性は無免許でした。無免許・信号無視という二重の違反行為が重大事故を招いた例であり、規制緩和後の課題を浮き彫りにしています。
- 東京・池袋のひき逃げ事件(2023年9月):20代の女性が歩道上で電動キックボードを運転中に歩行者に衝突し、相手に鎖骨骨折などの重傷を負わせました。女性はそのまま立ち去ろうとしたため現場にいた警察官により逮捕されています。電動キックボードも車両の一種であり、人に怪我をさせて逃げればひき逃げ(救護義務違反)という重い犯罪になることを示すケースです。
これらの事例からも明らかなように、電動キックボードの事故は利用者本人だけでなく周囲の歩行者や他の車両にも大きな被害を及ぼす可能性があります。小さな乗り物だからと甘く見ず、ルールを守り安全運転を徹底することがいかに重要かが分かります。
電動キックボードの反対署名運動も起きている
こうした事故多発や迷惑行為の状況を受けて、一般市民による電動キックボード反対の署名運動も起こっています。代表的なのが、シェアリング大手LUUP(ループ)の利用による被害者や不安を感じる人々が立ち上げたオンライン署名です。発起人は「LUUP被害者の会」という団体で、電動キックボードのレンタル事業によって国民が危険にさらされているとして事業者(株式会社LUUP)および内閣総理大臣宛てに署名を提出する活動を行っています。

署名ページでは、LUUPがレンタルする電動キックボードによって交通違反や危険運転が多発し事故が急増している事実が指摘され、「このような国民を危険にさらす行為をやめてほしい」と訴えています。また違法な場所への無断駐車が各地で見られることも問題視されており、そうした社会問題に対して事業者が十分な責任を果たしていないとも批判しています。
実際の署名欄には「危険極まりない乗り物は全廃を!」「利用者も未熟で規制を強化すべき」「非常に危険でルールを守らない運転が目立つので使用中止してほしい」など、多くの切実な声が寄せられています。この署名運動はメディアでも注目され始めており、今後の規制見直し議論に影響を与える可能性もあります。市民が声を上げるまでに至った現状は、いかに電動キックボードに対する不安・不満が高まっているかを物語っています。
まとめ:安全に使えば便利な乗り物
電動キックボードをめぐる批判や禁止論の背景には、急速な普及にルール整備やモラルが追いつかず「安全軽視のまま野放し」との懸念が広がったことがあります。しかし、本来電動キックボード自体はルールを守って安全に使えば有用な次世代の移動手段です。実際、渋滞の回避やCO2削減に役立つ新モビリティとして期待する声もあり、海外では一部都市で禁止される一方、上手に共存を図っている例もあります。
今必要なのは闇雲に排除することではなく、利用者への教育とルールの徹底、そしてインフラ整備と厳格な取り締まりでしょう。警察庁もヘルメット着用の促進や交通安全教育の充実、悪質違反の重点取り締まり方針を打ち出しています。電動キックボードは正しく使えば小回りがきいて便利な乗り物です。
利用者一人ひとりがモラルと責任を持ち、安全第一で利用することで、便利さと安全性を両立させていくことが可能になるでしょう。ルールを守り安全に使えば、電動キックボードは決して「頭おかしい」どころか、私たちの生活を豊かにする頼もしい移動手段となり得るのです。
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