東海道・山陽新幹線の7号車に設定されているS Work車両について、「うるさいのではないか」「仕事をしない人でも利用できるのか」といった疑問を持つ方が増えています。実際に利用者からは、従来の静かな環境とは異なる車内の様子に戸惑う声も聞かれます。
本記事では、S Work車両の基本的な仕組みから実際の音環境、利用条件、そして快適に利用するための注意点まで、交通専門の視点から詳しく解説します。特に最近では客層の変化により、当初想定されていた静かなビジネス環境とは異なる状況も報告されており、利用前に正しい知識を身につけることが重要です。
S Work車両とは？
S Work車両は、JR東海とJR西日本が提供するビジネスパーソン向けの専用車両です。東海道・山陽新幹線の「のぞみ」「ひかり」「こだま」の7号車（普通車指定席）に設定されており、新幹線で仕事を進めたいお客様の利用を想定した車両として設計されています。
この車両の最大の特徴は、従来の新幹線車内では禁止されていた座席での通話やWebミーティングが許可されていることです。パソコンの打鍵音、携帯電話、Webミーティングの通話音等、仕事を進めるうえでの最低限の作業音はお客様同士相互に許容いただくことが前提となっています。
S Work車両には通常の座席に加えて、「S WorkPシート」という特別席も設置されています。これは3人掛け席の中央（B席）にパーティションを設置し、パーソナルスペースを拡大した座席で、追加料金1,200円で利用可能です。また、N700S車両では「S Wi-Fi for Biz」という専用Wi-Fiサービスも提供されており、通常の車内Wi-Fiより通信容量が2倍、利用時間制限なしの環境が整備されています。
料金については、通常の普通車指定席と同額で利用でき、2024年5月からは駅窓口や券売機でも購入可能になりました。これにより、従来のEXサービス専用商品から、より幅広い利用者がアクセスできるサービスへと拡充されています。
S Work車両はうるさい？
S Work車両の音環境については、従来の新幹線車両とは大きく異なる特徴があります。結論として、一般的な新幹線車両よりも音が出ることが前提とされた空間であるため、静かな環境を求める方には「うるさい」と感じられる可能性があります。
この車両では、ビジネス目的の音が許容されることが最大の特徴です。具体的には、通話やWeb会議、タイピング、マウス操作といったビジネス目的に紐づく「作業音」が認められています。JR西日本の公式ガイドラインでも、「WEBミーティングや携帯電話の通話は、まわりのお客様へご配慮のうえ座席でもご利用いただけます」と明記されています。
しかし、利用者の実体験からは音環境への懸念も報告されています。実際の利用者からは「新幹線のSワーク車両で二人席に座ったサラリーマン二人組が酒飲みながら話しててうるさいです」といった声や、「ななめ前の席から『プシュプシュ』と小気味いい2回ほど音が聞こえてきた。ビールのタップをあけて乾杯していた」という報告もあります。
重要なのは、S Work車両で許容される音とそうでない音の区別です。許容されるのは「仕事の音」であり、音楽の音漏れや動画の音声、雑談、子どもの声などの「生活音」は、たとえ小さくても違和感を持たれやすくなります。この車両はオフィスのような空間を意識して設計されているため、ビジネスに関わる「作業音」には寛容でも、「生活音」には非常に敏感な環境となっています。
S Work車両は仕事しない人も利用できる？
S Work車両の利用可否について、仕事をしない人でも利用できるかという質問に対しては、結論として利用自体は可能ですが、車両の目的と環境を理解した上での利用が求められます。
JR東海の公式情報によると、S Work車両は「仕事を進めたいお客様のご利用を想定した車両」と明記されており1、「ビジネスという同じ目的でご利用になるお客様同士、気兼ねなく仕事を進めていただくことを想定した車両」として設計されています。
しかし、予約システム上で仕事をしているかどうかを確認する仕組みはなく、スマートEXのアプリをダウンロードして予約さえすれば誰でも予約できる状況です。
実際の利用状況を見ると、客層に変化が生じていることが報告されています。利用者からは「この愛すべきS Work車両も認知度拡大に伴い、客層が変わってきたような気がする」という声があり、「Workとは記載しているものの、別に仕事をしなくてもいいわけで」との認識も示されています。
ただし、利用する場合には車両の特性を理解することが重要です。S Work車両は「ビジネスパーソン向けに設計された特別車両」であり、「同僚やご家族、ご友人との会話を楽しみたい方は、普通車指定席を利用しましょう」との案内もあります。つまり、仕事をしない場合でも、車内の静かなビジネス環境を尊重し、歓談や座席の回転は控える必要があります。最近では外国人観光客の利用も増加しており、本来の「ワークプレイスとしての環境を維持してほしい」という利用者の期待との間にギャップが生じているケースも報告されています。
S Work車両を使うときの注意点
S Work車両を快適に利用するためには、この車両特有のルールとマナーを理解することが重要です。これから3つの主要な注意点について詳しく説明します。
注意１：音に関するルールを守る
S Work車両では音に関する明確なルールが設定されており、これを理解せずに利用すると他の乗客に迷惑をかける可能性があります。
許可されている音としては、パソコンのキーボード音、携帯電話での通話、Webミーティングの音声などがありますが、これらも周囲への配慮が必要です。JR西日本のガイドラインでは「WEBミーティングは、ヘッドセットやマイクを活用して小さな声でお話いただくことやチャット機能をご活用いただくなど、まわりのお客様へご配慮いただくようお願いします」と明記されています。
禁止されている音については、モバイル端末等の電子音や音声はOFF、またはイヤフォン等を活用することが求められています。また、音楽の音漏れや動画の音声、私的な雑談などは、たとえ小さな音量でも「生活音」として車両の環境にそぐわないため避けるべきです。
通話やWeb会議を行う際は、声の大きさにも注意が必要です。オフィス環境と同様の配慮が求められ、大声での会話は禁物です。また、通話内容についても、機密性の高い内容は避け、周囲に聞かれても支障のない範囲での利用が推奨されます。
注意２：座席利用のマナーを守る
S Work車両では、座席の使用方法についても特別なルールが設けられています。
最も重要なのは座席の回転禁止です。JR西日本の公式ガイドラインでは「座席の回転や大きな声でのご歓談はお控えください」と明記されており、これは車内を静かなワークスペースとして維持するための重要なルールです。
リクライニングについても配慮が必要です。S Work車両では、前席がリクライニングした場合でもモバイル端末などを利用しやすい環境とするため、2023年7月以降、リクライニング角度を縮小する方向に調整されています。これにより、後ろの座席の方の作業環境を妨げないよう配慮されています。
S WorkPシートを利用する場合は、特別な機能を理解して使用することが重要です。テーブルを手前に引き出すと傾けることができ、ノートパソコン等を適した角度で使用できますが、テーブルの上に飲み物やスマホなどを置くと落下しやすいため、B席部分に設けられたドリンクホルダーや物を置くスペースを活用する必要があります。
また、荷物の管理についても注意が必要です。S Work車両は普通車指定席と同様の座席配置ですが、多くの利用者がパソコンやタブレットなどの機器を使用するため、荷物の置き場所や通路の確保について特に配慮が求められます。
注意３：他の乗客との適切な距離感を保つ
S Work車両では、他の乗客との関係性についても従来の新幹線とは異なる配慮が必要です。
最も重要なのは、私的な会話の制限です。「快適なワークプレイスとしての環境を維持するため、お客様同士でのご歓談、並びに座席の回転はお控えください」との公式ガイドラインがあり、車内は基本的に個人作業に集中する空間として設計されています。
ビジネス目的での必要最小限のコミュニケーションは許可されていますが、プライベートな雑談や娯楽目的の会話は控えるべきです。これは、車内をオフィス環境として機能させるための重要なルールです。
子連れでの利用については特に注意が必要です。S Work車両はビジネス環境として設計されているため、子どもの声や泣き声は「異物感」を与える可能性があります。実際に、子連れ客向けの案内では「子連れは7号車、8号車の座席指定は避けるべき」との推奨がなされています。
近年増加している外国人観光客の利用についても、車両の目的を理解せずに利用するケースが報告されており、利用者からは「ワークプレイスとしての環境を維持してほしい」との要望が寄せられています。このため、利用前に車両の性格を十分理解し、適切な利用を心がけることが重要です。
また、セキュリティ面での配慮も必要です。ビジネス利用が前提の車両であるため、パソコン画面の内容や通話内容が他の乗客に見聞きされる可能性があります。機密性の高い作業や重要な会議は避け、公開されても支障のない範囲での利用に留めることが推奨されます。
まとめ：最近うるさくなってきたという人が増えた
S Work車両について、利用者から「最近うるさくなってきた」という声が増加している現状があります。これは車両の認知度向上と利用者層の拡大に伴う変化として捉えることができます。
当初、S Work車両はEXサービス専用商品として限定的に提供されていましたが、2024年5月からは駅窓口や券売機でも購入可能になり、より多くの人がアクセスできるサービスへと変化しました。この利便性向上の一方で、「スマートEXのアプリをDLして、アプリから予約さえすれば誰でも予約できる」状況となり、本来の目的を理解せずに利用する人も増加しています。
特に問題となっているのは、ビジネス目的ではない利用者の増加です。利用者からは「Workとは記載しているものの、別に仕事をしなくてもいいわけで」という認識の広がりや、「ビールのタップをあけて乾杯していた」「酒飲みながら話しててうるさい」といった、車両の目的にそぐわない利用が報告されています。
外国人観光客の利用増加も環境変化の要因の一つとして挙げられています。観光目的での利用者は、車両の「ワークプレイス」としての性格を理解せずに利用するケースが多く、従来の静かなビジネス環境を期待する利用者との間にギャップが生じています。
この状況を改善するためには、利用者一人ひとりが車両の目的と利用ルールを正しく理解することが重要です。S Work車両は「ビジネス空間として成立する音」が前提とされており、「どんな音でもOKな空間」ではないことを認識する必要があります。JR東海・JR西日本も利用ガイドラインの周知徹底を図っていますが、利用者側の意識向上も不可欠です。
今後S Work車両を利用する際は、車両の本来の目的である「移動中の生産性向上」を尊重し、適切なマナーを守って利用することで、すべての利用者にとって快適な移動空間を維持することができるでしょう。
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